前回、ホークアイとマルコーによって語られたイシュヴァ―ルの内乱。
スカーはその話の中で、兄のことを思い出します。

分かり合おうとした人たちがいた。
しかしその裏でブラッドレイは、イシュヴァ―ル人の大粛清を始めますー。

あの日、イシュヴァ―ルで何が起きたのでしょうかー?!
感想です☆




第59話~ 「背徳の錬金術師」





※以下、ネタバレあり※










◎あらすじ◎

第5研究所ー
そこには、捕らえられたイシュヴァ―ル人たちが集められていた。

部屋には巨大な錬成陣があり、科学者たちやマルコー、そしてラストの姿もあった。
イシュヴァ―ル人たちが錬成陣の上に置かれると、早速錬成が始まるー。

光が放たれると、途端にイシュヴァ―ル人たちは悲鳴をあげ苦しみ始めた。
彼らのエネルギーは中央にある台に集められていく・・。
マルコーたちは、その禍々しい光景をただ見つめるしかなかった。

そしてー数分の後、イシュヴァ―ル人たちは絶命した。
マルコーは中央の台に歩み寄り、中に赤い石ができていることを確認する。
それは・・賢者の石だったー。


戦場では、毎日激しい戦いが繰り広げられていた。
イシュヴァ―ル人の若い男たちは軍に応戦し、年寄りや子供たちは誘導されて必死に町を逃げようとする。
だが国家錬金術師が投入されてから、イシュヴァ―ル人たちは日に日に追い詰められていった・・。

戦場のあちこちで、火柱があがる。
逃げ惑う人々の前には、錬金術師が作った壁が立ちはだかる。
逃げ場を失い戸惑う人々。軍人たちはそんな人たちに、容赦なく銃弾を浴びせたー。

壁を錬成したアームストロングは、向こう側でイシュヴァ―ル人の断末魔の叫びが上がるのを、ただ震えながら聞いていた。
彼は何とかその音を聞かないように、そして悲惨な光景を見ないように、よけながら戦場を歩くー。

その時、物音がして彼はびくっと身体を震わせた。
見ると物置のような小さな空間に、2人の女性が身体を縮こまらせて固まっていた。
彼女たちの瞳は恐怖と怒りに見開かれ、アームストロングを捉えていた。
アームストロングは全身を汗で濡らしながら、覚悟を決め思いっきり拳を振り上げるー。

彼はその拳を壁にぶち当て、抜け穴を作った。
逃げろ、早く!!
そう囁くと、彼は2人にひたすら東に逃げるように伝える。

そこで女性たちは急いで穴を抜け、走り出した。
彼女たちは途中で振り返り、命の恩人であるアームストロングに頭を下げる。
だがその時だった。

閃光が女性たちを包みこみ、2人の身体は粉々に砕け散ったー。
目の前の光景にアームストロングはただ目を見開き、膝から崩れ落ちる・・。

そこにやってきたのは、キンブリーだった。
彼は危ないところでしたねーとアームストロングに手を差し出す。
敵を見逃すなんて真似、他の者に見られたら軍法会議は免れませんよー。
その顔に笑みがあるのを見たアームストロングは、がっくりとうなだれるのだった。


同じ頃、別の戦場では軍とイシュヴァ―ル人との激しい攻防が続いていた。
イシュヴァ―ルの武僧は身体も大きく、力も強い。
武器をもってしても、軍人たちは苦戦させられていた。

が、そこに焔の錬金術師がやってくるという報告が入る。
軍人たちは巻き込まれないように、と慌ててその場を離れるー。

そうして場が静かになったのを、イシュヴァ―ル人たちは不思議に思って見ていた。
どうやら攻撃も止んだようだ・・。
身を隠していた彼らは、周囲の様子を窺うために顔を出す。

その時ー彼らの目の前を、一気に光が走った。
同時に火柱が上がり、周りにいた人間たちは皆その炎の中に呑み込まれてしまう。

その炎は、イシュヴァ―ル人を1人たりとも逃しはしなかった。
身体が燃え、肺が焼けるー
瀕死の男の1人が、近づいてくるマスタングに気付き、そのグローブに錬成陣が刻みこまれているのを見た。

錬金術師か・・。
男は苦しさに涙を流しながら、マスタングを睨む。
これがお前たちの望む錬金術の使い方か・・。錬金術は、人々のための技術ではなかったのか・・

彼が全てを言う前に、マスタングはとどめの一撃を放った。
男たちの身体は跡形もなく燃え尽くされていく・・。
その横を、マスタングは何も言わずただ通り過ぎるのだった。

ー軍の詰め所に戻ると、そこではコマンチが大声をあげてのたうち回っていた。
どうやら彼は足を撃たれたらしい。
戦地を退いていく彼を、軍人たちはある意味羨ましく見つめる・・。

彼らにとって、国家錬金術師は自分たちとは違う化け物のような存在だった。
コマンチにしろ、マスタングにしろー余り近づきたくないな、と軍人たちは囁き合い笑う。
それを聞いていたヒューズは息をつくと、マスタングの元へ向かうー。

彼らは、久々に再会した。
ヒューズは互いの無事を喜び合い、マスタングの肩を叩く。
だがその顔を覗いた彼は、マスタングの表情を見て顔をこわばらせた。

お前・・目つき変わっちまったな・・。
それを聞いたマスタングは、気だるげにヒューズを見やるー。

今や2人の眼は、人殺しの眼だった。
彼らは士官学校で過ごした日々を思い出し、あの頃は国の美しい未来について語ったなーと笑う。

彼らの未来には、こんな未来は含まれていなかった。
毎日大砲をぶち込んで追い詰めて、焼き尽くす。生き残った者がいたら、銃殺する。
それを繰り返すだけの日々・・。

ヒューズは、本当にイシュヴァ―ル人を全員殺すまで続けるつもりなんだろうか・・?と疑問を口にする。
マスタングもうなづき、変だと思わないかー?と問題提起する。

この殲滅戦、反乱を抑えるためだけが目的だとしたら、リスクが大きすぎやしないかー?

ヒューズは同意し、イシュヴァ―ルにそれだけのことをするだけの価値があるのか・・と考え込む。
西も南も一触即発の状況なのに、これだけやっても手に入れられるのは東部の安寧だけ・・。
この地に、そこまでする何かがあるのかー?
2人は不審を感じながらも、答えは出せずにいた・・。

その時ー2人の背後で、動く者がいた。
彼は恋愛の話に2人が移るときを見計らい、ナイフを構えて駆け寄る。
そして思い切りそのナイフを振り上げたー

話に夢中になっていたマスタングたちは、その攻撃に反応が遅れてしまった。
目を見張る2人ー
だがその瞬間、男の頭に銃弾が直撃した。

男はそのまま倒れ、絶命する。
どこからの銃撃だ?!
マスタングは驚き、周りを窺う。

だがヒューズは遠くを見て、大丈夫だーと言った。
どうやら狙撃手は、遥か向こうの建物の上にいるらしい・・。
ヒューズはそっちに視線をやりながら、俺たちには「鷹の眼」がついているーと笑う。

・・それを聞いたマスタングは、引っかかるものを感じた。
鷹の眼・・?
彼はヒューズに、その人物について聞く。

なんでも「鷹の眼」とは、まだ無名の狙撃兵らしい。
士官学校を卒業していないが、腕を見込まれて戦場に送られた逸材だという。
そんな話をしながら、2人は詰め所へと戻る・・。

するとヒューズは、いたぞ、とマスタングの肩を叩いた。
彼はさっきの礼を言いに、1人の兵士の元へと向かう。
彼女が鷹の眼だー
紹介されたマスタングは、目を見開くー。

そこにいたのは、かつての師匠の娘ーリザ・ホークアイだった。
お久しぶりです。覚えておいででしょうか・・?
そう声をかけられたマスタングは、顔を歪める。

忘れるものか・・。

彼は、身体が重くなっていくような思いを感じた。
ああ、なんということだ・・。この女も、人殺しの眼になってしまった・・。


中央司令部ー
マルコーはイシュヴァ―ル人から出来上がった賢者の石を献上していた。

彼が石を取り出すと、軍人たちは皆おお・・っと声をあげる。
これが賢者の石・・!
皆一様に身を乗り出し、実験に成功したマルコーをほめたたえる。

これがあれば、殲滅戦などすぐに終わる。
1人の男が石を手に取り、着席している男にそれを差し出した。
頼んだぞ、キンブリー少佐。

マルコーは、彼と会うのは初めてだった。
後ろで黒髪の長髪を束ねた若い男ー
彼はマルコーに、自分は紅蓮の錬金術師だ、と名乗る。

ゾルフ・J・キンブリーです。よろしく、ドクター。
キンブリーは笑みを浮かべ、マルコーの手を取ったのだった。

ーその後、マルコーは中央司令部を後にした。
外に出た途端、彼の身体はわなわなと震え、汗が噴き出した。
マルコーは頭を抱え、思わずその場にうずくまりそうになる・・。

そんな彼に、声をかける者がいた。
あんた、中央のマルコーさんだろ?

そう言ったのは、ノックスだった。
彼は名を名乗り、自分はちょっと前まで軍医だったーと告げる。

その言葉にマルコーが違和感を感じた時だった。
ノックスの後ろの建物からけたたましい悲鳴があがり、彼はぎょっとする。

するとノックスが煙草をふかしながら、あれはイシュヴァ―ル人の悲鳴だーと説明した。
ここでは、火傷と苦痛が人体に与える影響について調査している・・。
それを聞いたマルコーは、人体実験場じゃないか・・!と絶句する。

医者なのに、そんなことをやらされているのか?!
彼が信じられないというように声をあげると、ノックスはそうだよな・・と呟いた。

一方では、戦地でイシュヴァ―ル人の治療を続けるアメストリス人の医者夫婦がいる。
一方では、医者であるのに強権にへつらい、人を殺している医者がいる。
彼はロックベル夫妻の話をマルコーにすると、尋ねる。

なんで俺は医者なのに、人を殺しているんだ・・?!
ーその問いに、マルコーは何も答えることができないのだった・・。


ーそうして、人々の心はどんどん疲弊し病んでいった。
ホークアイはマスタングに話す。
自分は父親が怖かった・・と。

父の研究する姿は、何かに取りつかれたようで怖かった。
だがそれでも自分は、錬金術は多くの人々に幸福をもたらすものだという父の言葉を信じていた・・。

彼女は自分の手を見つめながら、その顔を歪める。
そう信じていた・・。でも・・。
その瞳が真っすぐにマスタングを捉え、問う。

教えてください、少佐。国民を守るべき軍人が、なぜ国民を殺しているのですか?
人に幸福をもたらすべき錬金術が、なぜ人殺しに使われているのですかー?

その頃ー
スカーの兄は、錬金術の書を片っ端から調べていた。

彼は錬丹術を知ることで、アメストリスの錬金術に不審な点があることに気が付き始めていた。
兄は1人、考え込む・・。
この国の錬金術は、何かがおかしい・・と。




















傷を負う兵士たち。

今回はイシュヴァ―ル殲滅戦が進むにつれて、軍の人間たちが疲弊し心を病んでいく話でした。
重い・・。余りに重くて、読み進めるのが本当に辛いですね。
特にアームストロングを見るのが辛かった・・。彼は本当に優しい人だなぁ。

そしていよいよキンブリーが動き出しましたね。
今は幽閉されている彼ですが、イシュヴァ―ルの内乱では最前線で戦ったのですよね?
一体彼は何をしたのか・・ついにそれが明らかになるようです。


ではまずは、アームストロングから。

今回の彼を見るのは、本当に辛かったです・・。
どれだけ彼が心を痛めながら任務についていたのかと思うと、可哀想でならない。
覚悟がなかったと言われたらそれまでだけど、彼は決してこんなことをするために軍に入った訳ではないのにー。

人民を守るために入った軍で、人民を殺していく・・。
その矛盾にアームストロングが耐えられなかったのも当然だと思います。
どこまでも優しい人をも、戦争は人殺しにしていくのですね・・。

特に彼がイシュヴァ―ル人を逃がそうとしたくだりは、絶望しかなく目を覆いたくなりました。
あれはキンブリーでなくても、ああしたとは思います。実際にバレたら、軍法会議にかけられて裏切り者だと罵られるのは間違いないですからね。

でも目の前で救えたかもしれない命が奪われた。
それももしかしたら、自分の甘さが原因で・・。
そう思ったら、耐えきれませんよ。

彼がこの戦地で心が折れたのも、当然だと思います。
このまま上層部に上っていっても、また人殺しに手を染めなければいけないのなら・・自分が今度は命令を下す立場になるのなら・・
もうここで終わりでいい、と考えてしまいますよね。

それでも軍を辞めなかったのは、アームストロングがまだ軍の可能性を見ているからなのかな。
マスタングが上に上がっていけばー変われると信じているのではないでしょうか。

こういう真に人のために役に立ちたいと思っている人のためにも、マスタングには頑張ってもらわないとなりませんね。
そして前巻でのアームストロングの決意が、今回の話を読むとどれだけ重いものかがよく分かりました・・。

今度こそ人民の命を救うために、ホムンクルスを止めないとなりませんね。
アームストロングにとっては、かえって敵が人間ではなかったことで戦いやすくなり、良かったのかも。
彼のこれからの活躍に、改めて期待したいと思わせられた回でした。





続いて、マスタングたち。
久々のヒューズの登場!そして戦地でのホークアイとの再会ー。
こちらも盛沢山でした。

マスタングとヒューズは、この頃から頭が切れる面が伺えますね。
軍に大人しく従いつつも、軍への不審を強めていく・・。
こうして彼らは、マスタングが上に上がることを望んだのだな、と分かるエピソードでした。

彼らもまた、自分たちが軍に入ったのはこんなことをするためじゃないーと考えていました。
いや、もしかしたら参加した軍人たちのほとんどが、そう思っていたのかもしれませんね。

確かに2人の言うとおり、イシュヴァ―ル人を全て殲滅するといいう作戦も大胆すぎるし、そこまでするメリットもあまり見受けられません。
むしろ戦争が長引くと軍人たちも疲弊するし死者も増えるし・・良策とはいえませんよね。

でもそんなことを深く考える思考すら奪うー。
それが戦争というものなのでしょう。
ただひたすら言われたことを信じ遂行しなければ、アームストロングのように心を病むだけですからね・・。

ただマスタングもヒューズも、目の光が消えていないことにはほっとしました。
ヒューズには彼の帰りを待つグレイシアがいるし、マスタングもまだ軍で働くことへの熱意が消えているようには見えません。
その光がきっと戦後も続き、彼らは軍の上層部を切り崩していくことを目指すようになったのでしょうね。

そしてきっとホークアイも、そんな熱意に魅入られて、マスタングの下で働くようになったのではないでしょうかー。


再会した彼女もまた、人殺しに染まってしまっていました。
師匠の家にいた頃の面影が消えていることに、マスタングもショックを受けていましたね。

彼女は父の姿を怖いと感じながらも、それでも父が死ぬまで執心し続けた錬金術に可能性を見て、軍に入りました。
きっとマスタングに会いたいという気持ちもあったのでしょうね。

でも彼女が入った軍はまさに戦争の最中で、1つの民族の命を奪おうと錬金術を戦いにのみ費やしていました。
そんなことのために錬金術は使われるはずじゃなかったのに・・。
彼女の中にも、戦争と軍への疑問が生まれていました。

皆同じですよね。
この戦争はおかしいー
誰もが思っているのに、止められない。だからすり減り、自分を失う・・。

マスタングはホークアイのこの質問に、どう答えるのでしょうか。
彼が彼女の心を動かしたのだとするとーそれはどんな言葉だったのか、気になりますね。

戦争が終わった後、ホークアイはマスタングに付き従うことを決意します。
それは恐らく、マスタングが彼女の疑問に答え、新たな道を提示したからー。
2人の間にどんな話し合いが行われたのか、それは今後明らかになるのでしょう。楽しみですね。

リンに王のとしての器が見られるように、マスタングにもそれはあるのかー
期待して見て行きたいと思います。





最後に、マルコーとノックスについて。
今回は戦争に巻き込まれた医者たちの姿も描かれました。

2人共立場は違えど、人体実験に加担させられているという現実ー。
本当に目を背けたくなりますよね。彼らもまた人の命を救うために医者となったのに、なぜこんなことをしているのかー
常に疑問を感じ、自身と葛藤していたのだと思います。

一方では、命を賭してイシュヴァ―ル人を救う医者もある。
それを知りながらも、上に従いただひたすらに命令に準じて動くのみー。
2人がまた心を病んだ理由も分かります。自分たちのしていることが正しいと思えないのに、その道を進むしかなかったのですからね・・。


戦争の恐ろしさって、こういう正しいと思っても声をあげられないところにあると思います。
何かがおかしい・・。
そう思っても巨大な波に飲みこまれたら、もうそこから抜け出すことはできない。

抜け出そうとしたら裏切り者と罵られるか、命を奪われるのみ・・。
そんな状況で、反旗を翻そうと思う人などいないでしょう。

そうして終わった後に残るのは、後悔と罪悪感ばかり・・。
戦争は何も残さないどころか、傷ばかりを人に刻んでいきます。
今の彼らを見ていると、一向に救われることがなく見ていて辛いですね。

スカーが復讐に囚われているように、軍人たちもまた別種の呪いに囚われています。
そして互いに、死んだ人たちを乗り越えて生きているー
うん、本当に辛い・・。

どう読んでも、戦争は悪だとしか思えないですね。
本当、これを描いた荒川先生には感嘆しかありません。
少年誌でこれを描いたことが、本当にすごいと思いますよ・・。

いよいよ殲滅戦もクライマックス。
賢者の石を手にしたキンブリーが動き出し、イシュヴァ―ルは悪夢に包まれるのでしょう。
最後の1人が死ぬまでに何があったのかー
辛いけど、見届けましょう・・。







さて、次回はキンブリーがイシュヴァ―ル殲滅戦に賢者の石を持ち込む回ですね。
軍人たちも疲弊するなか、更に事態は最悪の方向へと向かいますー・・。

そんな中、スカーの兄は何に気付いたのかー
いよいよ彼ら兄弟の元へも、戦火が訪れようとしています・・。

イシュヴァ―ル戦の真実も、全てが明らかになろうとしていますね。
最後まできっちりと見守ろうと思います。

次回も楽しみです☆